「同じような内容の介護記録や看護記録を何箇所にも記録している」
「毎日の申し送りに思っていた以上に時間がかかっている」
「利用者さんの情報を確認したいけれど、どこに記録されているのか探すことがある」
介護現場で働いていると、このような小さな手間を感じることは少なくありません。
一つひとつは数分程度の作業でも、ケアやコール対応に追われているとかなり手間に感じることも多いでしょう。
しかも介護現場では、利用者さんへのケアだけでなく、記録、申し送り、会議、書類作成、家族対応、多職種との情報共有など、さまざまな業務があります。
そこで最近よく耳にするようになってきたのが、「介護DX」です。
DXというと、
「AIを導入すること?」
「高額な介護ソフトを入れること?」
「ITに詳しい人がいないと難しいのでは?」
と感じる方もいるかもしれません。
ですが、介護DXは必ずしも大きなシステムを導入するところから始める必要はありません。
例えば、
「この記録、同じことを2回入力しているけれど、1回にできないかな?」
と考えることも、介護DXで解決できる可能性があります。
介護DXで大切なのは、最新の技術を使うことそのものではなく、デジタル技術を活用しながら、今の仕事を少しずつ改善していくことです。
この記事では、厚生労働省などの一次情報を参考にしながら、介護DXとは何なのか、現場ではどのようなことが変わるのか、そして実際に取り組むなら何から始めればよいのかを、できるだけわかりやすく整理していきます。

介護DXで現場はどう変わる?
「介護DXとは何か」という定義から入ると、少し難しく感じるかもしれません。
そこでまずは、実際の介護現場をイメージしてみましょう。
介護DXによって変わる可能性があるのは、特別な仕事だけではありません。
普段何気なく行っている介護記録や申し送り、見守り、リハビリ、栄養管理なども対象になります。
・介護記録
介護DXをイメージしやすいのが、介護記録です。
例えば、
利用者さんへのケアを行う
↓
その場では紙やメモに記録する
↓
事務所へ戻る
↓
パソコンへ同じ内容を入力する
という流れになっていたとします。
この場合、「記録する」という同じ目的のために、複数回の作業が発生しています。
タブレットやスマートフォンを使って、その場で記録できるようになれば、後から入力し直す作業を減らせるかもしれません。
さらに、その記録内容を申し送りや他職種との情報共有にも活用できれば、
「記録方法をデジタルに変える」
だけでなく、
「記録した情報を何度も入力する必要がない仕組みに変える」
ところまで進められます。
介護DXでは、この違いがとても重要です。
・申し送り・情報共有
介護現場では、一人の利用者さんに多くの職種が関わります。
介護職だけでなく、看護師、ケアマネジャー、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などが関わることもあります。
そのため、情報共有は欠かせません。
一方で、
「昨日の様子はどこに書いてあったかな?」
「この情報は看護師さんに伝わっているかな?」
「リハビリでの変化を介護職にも共有したい」
といった確認が必要になることもあります。
情報が紙、口頭、個人のメモ、介護ソフトなど複数の場所に分かれていると、それだけでも確認に時間がかかります。
必要な人が、必要な情報を、必要なタイミングで確認しやすい仕組みを作ることも介護DXの一つです。
もちろん、すべての職員がすべての情報を見られるようにすればよいわけではありません。
個人情報やアクセス権限にも配慮しながら、安全に情報を共有できる仕組みを作ることが大切です。
・見守り
見守りセンサーなども、介護DXの代表的な例の一つです。
例えば夜間、利用者さんの安全確認のために定期的な巡回を行っている施設もあります。
見守りセンサーを利用することで、ベッドからの離床や利用者さんの動きを確認する補助として活用できる場合があります。
ただし、
「センサーがあるから人が見なくてよい」
という話ではありません。
大切なのは、テクノロジーを使うことで、
「いつ確認した方がよいのか」
を判断する材料が増えることです。
人による観察とテクノロジーを組み合わせることで、職員の負担を減らしながら安全性を高められる可能性があります。
・リハビリ・機能訓練
介護DXは、介護記録だけに限った話ではありません。
リハビリや機能訓練の分野でも、デジタル技術の活用が進んでいます。
例えば、
歩行速度、歩数、活動量、関節可動域、筋力、運動実施状況などをデジタルで記録することができれば、利用者さんの変化を確認しやすくなります。
また、これらのデータをリハビリ職だけで持つのではなく、介護職や看護師などとも共有できれば、
「最近歩く量が減っている」
「食事量も少し落ちている」
「活動性が下がってきている」
といった変化を、多職種で考えやすくなる可能性があります。
厚生労働省と経済産業省が示している「介護テクノロジー利用の重点分野」でも、2025年4月から「機能訓練支援」が追加されています。
介護DXは、少しずつケアそのものに近い領域まで広がってきています。
・食事・栄養管理
栄養管理についても同じです。
例えば、
体重、食事摂取量、水分摂取量、食事内容、栄養状態などの情報がそれぞれ別の場所に記録されていると、変化に気づきにくくなることがあります。
「最近体重が減っている」
という情報だけではなく、
「食事摂取量が減っている」
「活動量も少なくなっている」
「リハビリで疲れやすくなっている」
といった情報を合わせて確認できれば、利用者さんの状態をより広く見ることができます。
介護テクノロジー利用の重点分野には、「食事・栄養管理支援」も追加されています。
今後は、介護・看護・リハビリ・栄養といった情報をどのようにつなげていくかも、介護DXの重要なテーマになっていきそうです。
介護現場でDXを考えやすい業務
介護DXを考えるときは、いきなり「どのシステムを導入しよう」と考えるよりも、
「今の仕事で困っていることは何だろう?」
と考える方がわかりやすいです。
例えば、次のように整理できます。
| 業務 | よくある困りごと | 活用できそうな技術 |
|---|---|---|
| 介護記録 | 二重入力・入力時間が長い | タブレット・音声入力 |
| 申し送り | 時間がかかる・情報が分散する | 情報共有システム |
| 会議 | 議事録作成に時間がかかる | 文字起こし・生成AI |
| 見守り | 夜間巡回などの負担 | 見守りセンサー |
| リハビリ・栄養 | 評価情報が分散する | データ管理・共有システム |
ここで大切なのは、
「この技術を使えば必ず改善する」
という意味ではないことです。
同じ介護ソフトでも、事業所によって使いやすさは違います。
まずは、
「何に時間がかかっているのか」
「どの仕事を楽にしたいのか」
を整理し、そのあとに適した技術を考える方が、導入後の失敗も少なくなります。
そもそも介護DXとは?
ここで改めて「DX」という言葉を整理してみます。
DXとは、
Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)
の略です。
一般的には、データやデジタル技術を活用しながら、サービスや業務、組織の仕組みそのものをより良い形へ変えていく考え方を指します。
介護現場に置き換えると、
「デジタル技術やデータを使いながら、介護サービスや日々の仕事の進め方を改善していくこと」
と考えるとわかりやすいでしょう。
重要なのは、
「デジタル技術を使うこと」
そのものが目的ではないという点です。
あくまで目的は、
「仕事がしやすくなる」
「情報共有がしやすくなる」
「利用者さんへのケアに使える時間が増える」
といった変化を作ることです。
デジタル化・ICT化・DXはどう違う?
この3つはよく一緒に使われます。
簡単に整理すると、次のように考えるとわかりやすいです。
デジタル化
紙などのアナログ情報をデジタルへ変えることです。
例えば、
紙の介護記録
↓
パソコン入力
という変化です。
ICT化
タブレットや介護ソフト、ネットワークなどを仕事へ活用します。
例えば、タブレットから介護記録を入力し、他のスタッフも確認できるようにします。
ここまでくると、情報共有もしやすくなります。
DX
さらにDXでは、
「そもそも、この情報を2回入力する必要があるのか?」
「記録した情報を他の仕事でも使えないか?」
といったところまで考えます。
イメージとしては、
紙をデジタルへ変える
↓
デジタル技術を仕事に使う
↓
デジタルを使って仕事そのものを見直す
という流れです。
介護DXでは、最後の
「仕事そのものを見直す」
という部分が特に大切になります。

なぜ今、介護DXが必要なの?
介護DXが進められている背景には、介護を必要とする人の増加と、人材確保の問題があります。
厚生労働省によると、介護職員の必要数は、
2022年度:約215万人
2026年度:約240万人
2040年度:約272万人
と推計されています。
ここで注意したいのは、
「2026年度に25万人不足する」
という意味ではないことです。
2022年度と比較して、2026年度には必要とされる介護職員数が約25万人増えると推計されているということです。
一方、日本では今後、生産年齢人口の減少が進んでいきます。
そのため、
「介護職員を増やす」
という取り組みと同時に、
「今いる職員が働き続けやすい環境を作る」
ことも重要になります。
記録や事務作業に必要以上に時間を取られてしまえば、その分、利用者さんと関わる時間も少なくなります。
こうした背景から、ICTや介護テクノロジー、データ活用などを使った業務改善が注目されています。
介護DXは「仕事を速くすること」だけではありません
「生産性向上」
という言葉に、少し違和感を持つ方もいるかもしれません。
介護は、人と人が関わる仕事です。
単純に、
「短い時間でたくさん仕事をすればよい」
という考え方だけではありません。
厚生労働省も、介護サービスにおける生産性向上を**「介護の価値を高めること」**としています。
例えば、介護記録に毎日60分かかっていたものが45分になったとします。
15分短縮できました。
ですが、
「15分減ったから、別の仕事を15分増やそう」
だけでは少しもったいないかもしれません。
その15分を、
利用者さんと話す時間
状態を観察する時間
ご家族へ説明する時間
多職種でケアを検討する時間
などに使うこともできます。
つまり介護DXでは、
どれだけ時間を減らせたか
だけではなく、
生まれた時間を何に使うのか
まで考えることが大切です。
介護DXを始める前に確認したい4つのポイント
新しいデジタル技術を導入したからといって、必ず現場が楽になるとは限りません。
むしろ、導入の仕方によっては、以前より仕事が増えてしまうこともあります。
導入の際は以下のポイントに注意が必要です。
1.目的をはっきりさせずに導入してしまう
「AIが話題だから使ってみよう」
「タブレットを導入しよう」
と技術から考え始めてしまうケースです。
もちろん、新しい技術を知ることは大切です。
ただし、
「何を改善したいのか」
が決まっていなければ、導入したもののほとんど使われない可能性もあります。
2.今の仕事をそのままデジタル化しようとする
例えば、
紙で10項目記入
↓
タブレットで同じ10項目を入力
に変えただけでは、大きな負担軽減にならないこともあります。
場合によっては、
「この項目は本当に必要なのかな?」
「他の記録とまとめられないかな?」
と考えることも必要です。
3.現場スタッフが使いにくい
高機能なシステムであっても、実際に使うスタッフにとって操作が難しければ定着しません。
導入前に、実際に使用する職員の意見を聞いておくことも大切です。
4.導入後の効果を確認していない
「新しいシステムを導入しました」
で終わってしまうと、本当に仕事が改善したのか判断できません。
記録時間、残業時間、入力ミス、職員の負担感など、確認できそうな項目を一つ決めておくと変化がわかりやすくなります。
介護DXを始めるなら「まず3日だけ測ってみる」
では、実際に介護DXを始める場合、何から取り組めばよいのでしょうか。
最初から大きなシステムを導入する必要はありません。
このブログでは、
「時間を測る → 1つ変える → もう一度測る」
というシンプルな方法から始めるのがおすすめです。
STEP1.時間がかかっている仕事を3つ書き出す
例えば、
介護記録
申し送り
会議資料の作成
などです。
まずは、
「これ、意外と時間がかかっているな」
と思う仕事を書き出します。
STEP2.3日だけ時間を測る
例えば介護記録なら、次のように測ってみます。
| 日 | 記録時間 |
|---|---|
| 1日目 | 58分 |
| 2日目 | 63分 |
| 3日目 | 59分 |
| 平均 | 60分 |
毎日ずっと測り続ける必要はありません。
まず3日程度測るだけでも、おおよその状況が見えてきます。
STEP3.一つだけ変えてみる
例えば、
「音声入力を試してみる」
「タブレットから直接入力する」
といった改善を一つだけ試します。
最初から事業所全体を変えるのではなく、小さく試してみる方が取り組みやすいでしょう。
STEP4.もう一度測る
変更前が60分。
変更後が45分。
だったとします。
すると、1日15分短くなります。
月20日で考えると、単純計算で約5時間です。
もちろん、これは説明のための仮の例です。
実際には入力時間だけではなく、
修正時間
入力ミス
使いやすさ
なども確認する必要があります。
それでも、
「便利になった気がする」
だけで判断するより、数字で比較した方が効果はわかりやすくなります。
介護DXを進めるときに気をつけたいこと
介護DXには多くの可能性がありますが、便利さだけで導入を決めるのは避けたいところです。
特に重要なのが、個人情報やセキュリティです。
介護現場では、
・氏名
・住所
・健康状態
・既往歴
・要介護度
・生活状況
など、大切な情報を扱います。
個人情報は取扱を雑にしてしまうと最悪の場合、訴訟問題まで発展しかねません。
新しいサービスを導入するときには、
どの情報を入力するのか
誰がアクセスできるのか
データはどこに保存されるのか
退職した職員のアカウントはどう管理するのか
といったところまで確認する必要があります。
生成AIを利用する場合も同様です。
利用者さんの情報をそのまま入力してよいとは限りません。
利用するサービスの規約や、所属する事業所・法人のルールを確認したうえで使用することが大切です。
また、費用についても、
・初期費用
・月額料金
・端末代
・保守費用
・更新費用
などを含めて考えておく必要があります。
「便利だから導入する」
だけではなく、
「導入によってどの仕事を改善したいのか」
を明確にしておくことが大切です。
2026年の介護DXで知っておきたいこと
2026年現在、介護DXを取り巻く仕組みも少しずつ変化しています。
その中でも注目されているのが、介護情報基盤です。
介護情報基盤は、利用者本人、市町村、介護事業所、医療機関などが、介護に関する情報を電子的に共有・活用しやすくするための仕組みです。
2026年4月以降、準備が整った市町村から順次、データ移行や情報共有が始まっています。
そして2028年4月までに、全市町村での活用開始を目指しています。
つまり2026年は、
「介護情報基盤が全国で完成した年」
というよりも、
「介護情報基盤の利用が少しずつ始まり、本格運用へ向かっている途中」
と考えるとわかりやすいでしょう。
介護テクノロジーの対象も広がっている
厚生労働省と経済産業省は、「介護テクノロジー利用の重点分野」を2025年4月から9分野16項目へ拡充しています。
そこには、
機能訓練支援
食事・栄養管理支援
認知症生活支援・認知症ケア支援
なども含まれています。
介護DXは、介護ソフトや記録の電子化だけではありません。
リハビリや栄養、認知症ケアなど、実際のケアに近い領域にも広がっています。
明日からできる介護DX
ここまで読むと、
「DXが必要なのはわかった。でも、自分の職場では何をすればいい?」
と感じるかもしれません。
そんなときは、難しく考えなくても構いません。
明日仕事をするときに、
「意外と時間がかかっている仕事」を3つ探してみてください。
そして、その中から一つ選びます。
例えば「介護記録」を選んだなら、実際に何分かかっているのか測ってみます。
そこで初めて、
「もう少し短くする方法はないかな?」
と考えます。
その結果、
タブレット
音声入力
介護ソフト
AI
などが選択肢として出てきます。
つまり、
「AIを使いたいから仕事を探す」
のではなく、
「改善したい仕事があるから、使える技術を探す」
という順番です。
この考え方なら、DXに詳しくない事業所でも始めやすくなります。
まとめ
介護DXという言葉は、少し難しく聞こえるかもしれません。
ですが、実際には、
「記録に時間がかかる」
「申し送りをもう少し短くしたい」
「同じ情報を何回も入力している」
「必要な情報を探すのに時間がかかる」
といった、日々の小さな困りごとを見つけるところから始まります。
介護DXは、大きなシステムを導入することだけを意味するものではありません。
デジタル技術を利用しながら、
スタッフが働きやすくなり、利用者さんへのケアに使える時間を増やしていく。
そのために仕事の仕組みを少しずつ見直していくことが大切です。
まずは一つの仕事について、
「時間を測る → 一つ変える → もう一度測る」
ところから始めてみるとよいでしょう。
このブログでも今後、介護記録、生成AI、介護ソフト、リハビリDX、栄養などについて、公式情報を確認しながら、**「実際の現場ではどう使えるのか」**という視点で整理していきます。
次の記事では、
「介護記録を効率化する7つの方法」
について、さらに具体的に見ていきます。
参考資料
- 厚生労働省「介護DXの推進」
- 厚生労働省「介護情報基盤について」
- 厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
- 厚生労働省「介護分野における生産性向上」
- 厚生労働省・経済産業省「介護テクノロジー利用の重点分野」
- 厚生労働省 「介護テクノロジーの利用促進」
- 経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」