AI活用

介護現場で生成AIを使っても大丈夫?個人情報・セキュリティの注意点をわかりやすく解説

「ChatGPTを使えば、介護記録をもっと早く書けそう」

「申し送りや会議の内容も、AIに整理してもらえたら楽なのに」

生成AIを使っていると、そんな場面が増えてきます。

文章を整える。長い内容を短くする。研修資料の構成を考える。レクリエーションのアイデアを出す。

こうした仕事は、生成AIと相性のよい分野です。

一方で、介護現場で使おうとすると、すぐに一つの疑問が出てきます。

「利用者さんの情報をChatGPTに入力しても大丈夫なの?」

ここは、便利さだけで判断してはいけません。

介護現場では、氏名や住所だけではなく、病歴、障害、身体状況、認知機能、服薬、家族情報など、慎重に扱う必要のある情報を日常的に扱っています。

では、生成AIは介護現場では使わない方がいいのでしょうか。

そうではありません。

大切なのは、

「使うか・使わないか」ではなく、「何を、どの環境で、どんなルールで使うか」

を考えることです。

この記事では、介護現場で生成AIを使うときの個人情報・セキュリティについて、Describe(現状)→ Explain(問題点)→ Suggest(提案)→ Consequences(結果)の流れで整理します。


目次

  1. 介護現場ではどんな情報を扱っている?
  2. なぜ「学習されない=安全」ではない?
  3. 生成AIを安全に使うためにどうすればいい?
  4. ルールを決めるとAIはもっと使いやすくなる

介護現場ではどんな情報を扱っている?

まず、今の介護現場をそのまま見てみます。

介護職が普段扱っている情報には、利用者さんの氏名、年齢、住所、病歴、要介護度、身体機能、認知機能、食事摂取量、排泄状況、家族構成などがあります。

これらは、単なる「文章の材料」ではありません。

個人情報保護委員会・厚生労働省のガイダンスでは、介護関係記録に含まれる病歴、身体状況、障害などは、要配慮個人情報に該当する場合がある情報として示されています[1]。

要配慮個人情報という言葉は少し難しいですが、

普通の個人情報以上に、慎重に扱う必要がある情報

と考えると分かりやすいでしょう。

例えば、「山田太郎さん」という氏名だけでも個人情報になり得ます。

さらに、「82歳、脳梗塞後、右片麻痺、要介護3」といった情報が加わると、より慎重な扱いが必要になります。

介護記録には、こうした情報がたくさん入っています。

だから、

介護記録をそのまま個人で使っている生成AIへコピーする

という使い方には注意が必要です。

名前を消せば大丈夫?

「じゃあ名前だけ消せばいい?」と思うかもしれません。

例えば、

「山田太郎さん、82歳、○○市在住、脳梗塞後」

を、

「Aさん、82歳、○○市在住、脳梗塞後」

に変える。

確かに氏名は消えています。

でも、年齢、居住地、利用施設、病気、家族構成などが組み合わされると、本人を推測できる可能性があります。

つまり、

「名前を消した=完全に安全」ではありません。

生成AIへ入力する前に、「この情報の組み合わせから本人を特定できないか?」まで考える必要があります。


なぜ「学習されない=安全」ではない?

ここが一番誤解されやすいところです。

生成AIについて調べると、「入力したデータは学習に使われません」という説明を見ることがあります。

例えばOpenAIでは、ChatGPT Business、Enterprise、Edu、ChatGPT for Healthcare、APIなどの組織向けデータについて、デフォルトではモデルの学習に使用しないと案内しています[2]。

個人向けChatGPTでも、データコントロールからモデル改善への利用をオフにする設定があります[3]。

ここで、

「じゃあ学習されないなら、利用者情報を入力してもいいのでは?」

と思いたくなります。

でも、「AIの学習に使われない」ことと、「業務上その情報を入力してよい」ことは別です。

なぜ別なの?

例えば、勤務先で「個人情報を生成AIへ入力してはいけない」というルールがあるとします。

そこで職員が、

「自分のChatGPTは学習オフだから大丈夫」

と判断して利用者情報を入力する。

これは適切とは言えません。

確認する必要があるのは、AIの学習設定だけではありません。

  • 利用しているサービス
  • 契約内容
  • データの保存方法
  • アクセスできる人
  • 勤務先の規程
  • 利用目的

こうした条件も関係します。

個人情報保護委員会も、事業者が個人情報を含むプロンプトを生成AIへ入力する場合には、利用目的の範囲内であるかを確認することや、必要に応じてAI提供事業者による個人データの利用方法を確認するよう注意喚起しています[4]。

つまり、

「学習されるか?」だけでは判断できない。

ということです。

個人情報だけが問題ではない

もう一つ重要なことがあります。

それは、AIは間違えることがあるということです。

例えば元の介護メモが、

昼食5割。午後離床。

だったとします。

AIに文章化してもらった結果、

食欲低下がみられたため、午後は離床を促した。

となったらどうでしょうか。

文章としては自然です。

でも、元の記録には「食欲低下」も「離床を促した理由」も書かれていません。

AIが勝手に意味をつなげています。

介護記録では、これは困ります。

個人情報を守るだけでなく、

AIが事実を追加していないか

も確認する必要があります。


生成AIを安全に使うためにどうすればいい?

では、生成AIは使わない方がいいのでしょうか。

そうではありません。

むしろ、

「AIを使っていい仕事」と「慎重に扱う仕事」を分ける

ことをおすすめします。

最初から介護記録をAIへ任せる必要はありません。

まずは、個人情報をほとんど使わない仕事から始めます。

活用方法 個人情報 始めやすさ
レクリエーション案 ほぼ不要 ◎
研修資料の構成 不要 ◎
業務改善案 不要 ◎
マニュアルのひな型 不要 ◎
一般的な説明文の作成 不要 ◎
会議内容の整理 内容による △
申し送りの要約 含みやすい △
介護記録の文章整理 含みやすい 要注意

これは法律上の利用可否を示した表ではありません。

あくまで、「どこからAI活用を始めるとリスクを抑えやすいか」を考えるための目安です。

まず確認してほしい5つのこと

① 勤務先で生成AIを使ってよいか

個人の判断より先に、所属先のルールを確認します。

② 使用してよいサービスが決まっているか

個人アカウントと法人契約では、データの扱いや管理方法が異なる場合があります。

③ 本当にその情報が必要か

文章を整えるだけなら、氏名・住所・電話番号などが必要ないことも多いです。

④ AIの出力を人が確認しているか

元の情報にない内容を追加していないかを確認します。

⑤ 問題が起きたときの相談先が決まっているか

職員個人の注意だけでなく、組織として対応できる仕組みが必要です。

AIへ渡す情報はできるだけ減らす

例えば、

「以下の介護記録を文章化してください」

という仕事をするとします。

そのために、氏名、住所、電話番号、家族氏名、施設名まで必要でしょうか。

多くの場合、必要ありません。

AIに渡す情報は、

「この仕事をするために本当に必要な情報だけ」

に減らします。

これは生成AIに限らず、個人情報を扱うときの基本的な考え方でもあります。

AIは「完成品を作る人」ではなく「下書きを作る人」

生成AIの使い方としておすすめなのが、AIに完成品を求めないことです。

例えば、

職員がメモを書く
↓
AIが文章を整理する
↓
職員が元のメモと比較する
↓
必要な部分を修正する
↓
完成

という流れです。

AIの役割は、

判断すること

ではなく、

整理すること

です。

この距離感を保つと、生成AIはかなり使いやすくなります。


ルールを決めるとAIはもっと使いやすくなる

ここまで読むと、

「生成AIって、やっぱり危ないのでは?」

と思うかもしれません。

でも、実は逆です。

使い方のルールが決まるほど、安心して使える範囲が広がります。

例えば事業所内で、

  • レクリエーション案には使ってよい
  • 研修資料の構成にも使ってよい
  • 実在する利用者の氏名は入力しない
  • 介護記録を使う場合は指定された環境だけ
  • AIの文章は必ず職員が確認する

と決まっていたらどうでしょうか。

職員は、

「これ使っていいのかな?」

と毎回悩まなくて済みます。

AIを使う目的は「入力する情報を増やすこと」ではない

例えばレクリエーションを考えるとき、

80代中心、10人、座ったまま、30分

と入力する。

研修資料なら、

新人介護職向け、転倒予防、20分

と入力する。

業務改善なら、

夕方に記録業務が集中し、職員3人が45分ずつかかっている

と入力する。

これだけでもAIはかなり仕事をしてくれます。

利用者さんの氏名や病歴を入力しなくても、アイデアを考える時間、文章を作る時間、構成を考える時間を減らせる可能性があります。

つまり、

個人情報をたくさん入力しなくても、生成AIは十分役に立つ。

ということです。

その結果、何が変わる?

AIを安全に使えるようになれば、

  • 研修資料を作る時間が減る
  • 会議の準備が早くなる
  • レクリエーション案を考える時間が減る
  • 業務改善のアイデアを出しやすくなる

こうした変化が期待できます。

そして、そこで生まれた時間を、

利用者さんと話す。

表情を見る。

家族と相談する。

職員同士で話し合う。

ケアを考える。

そんな仕事へ戻すことができます。

ここが、介護現場で生成AIを使う本当のメリットだと思います。


まとめ

介護現場で生成AIを使うこと自体が、問題なのではありません。

問題になるのは、

「何を、どの環境で、どんなルールで扱うか」

です。

介護現場では、病歴、障害、身体状況、認知機能、介護記録など、慎重に扱うべき情報が多くあります。

だからこそ、

  • 勤務先のルールを確認する
  • 必要以上の情報を入力しない
  • サービスのデータ取扱いを確認する
  • AIの出力を人が確認する
  • まずは個人情報を使わない仕事から始める

この順番がおすすめです。

生成AIは、利用者さんの情報をたくさん渡すためのツールではありません。

人がやらなくてもいい仕事を減らして、人にしかできない仕事へ時間を戻すための道具。

そう考えると、介護現場でのAI活用の方向性も少し見えやすくなるのではないでしょうか。


参考資料

[1]個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」
介護関係記録に含まれる病歴・身体状況・障害などの個人情報について確認できます。
個人情報保護委員会 公式ページ

[2]OpenAI「ビジネスデータのプライバシー・セキュリティ」
ChatGPT Business、Enterprise、APIなどのデータ取扱いについて確認できます。
OpenAI 公式ページ

[3]OpenAI「Data Controls FAQ」
ChatGPTでモデル改善へのデータ利用を設定する方法などを確認できます。
OpenAI Help Center

[4]個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」
生成AIへ個人情報を入力する場合の注意点などが示されています。
個人情報保護委員会 公式ページ

[5]厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」
医療情報を扱う情報システムの安全管理について確認できます。
厚生労働省 公式ページ