AI活用

病院のリハビリDXはどう始める?生成AIを職員研修から導入する5ステップ

皆さんこんにちは。
リハケアラボのこうです!

突然ですが皆さん仕事やプライベートでAIは使っていますか?

最近では様々な企業が商品やコンテンツにAIを使用しているものがかなり増えてきた印象があります。

AIを我々のような医療関係機関で使用するとなると、個人情報などのリスクを鑑みると現状では「資料作成」「記録業務の効率化」「院内研修」など直接的に患者様に関係しないものから利用していくことになるでしょう。

もし病院のリハビリ部門で生成AIの導入を考えると、「研修資料づくりに使えそうだけれど、病院の業務で使ってもよいのか」「職員に使ってもらう前に、何を決めればよいのか」といった疑問はありますよね?

個人で資料を作る場合と、病院の業務として使う場合では、確認することが変わります。
どの作業に役立つかに加えて、入力してよい情報の範囲や、AIが作った内容を誰が確かめるかまで決めておきたいところです。

そこで本記事では、リハビリDXの第一歩として、院内で利用条件を確認し、実在する患者の情報を使わない職員研修から生成AIを試す方法を提案します。研修資料の作成や、仮想例を使った臨床推論の学習を題材に、準備から振り返りまでを5ステップにまとめました。

管理職の方が、上司や関係部署に「何のために、どのような条件で試すのか」を説明する際に使えるよう、確認事項を具体的に整理していますのでぜひ参考にしてください。


  1. リハDXの入口に、生成AIを使った職員研修を提案する理由
  2. ステップ1|解決したい研修の課題を一つ決める
  3. ステップ2|院内の承認と利用ルールを整える
  4. ステップ3|仮想例で臨床推論を学ぶ研修を設計する
    • 自分で考え、AIの出力と比較し、指導者と検証する
    • 根拠や参考文献は、原資料で確認する
    • 解剖学の生成画像も、確認してから教材にする
  5. ステップ4|少人数で試し、確認・修正の負担も記録する
  6. ステップ5|結果を共有し、継続・修正・中止を判断する
  7. 院内提案に使える導入前チェックリスト

この記事では「リハDX」を、デジタル技術を使って、リハビリ部門の業務や教育の進め方を改善する取り組みとして扱います。生成AIについても、研修の準備や進め方のどこに役立つかを考え、適切な場所で使うようにします。

職員研修から始める理由は、使用する題材、参加者、内容を確認する担当者を事前に決められるためです。また、実在患者の情報を使わないことで、AIからの個人情報の流出や学習をしない目的もあります。

例えば、次のような使い方が候補になります。

研修で困っていること生成AIに任せる作業の候補人が確認すること
研修資料の構成を考えるのに時間がかかる目的と対象者に合わせた見出し案の作成内容の正確さ、優先順位、研修時間に収まるか
新人に考えてもらう質問が思いつかない仮想例に対する問いかけの案出し学習段階に合っているか、答えを誘導しすぎないか
知識の確認方法が単調になる確認問題や解説のたたき台作成正答と解説が妥当か、引用文献が内容を裏づけているか

ただし、用途が思いつくことと、その研修で効果が得られることは分けて考えます。

WHOは、医療教育を生成AIの想定用途の一つに挙げる一方、不正確な出力や、AIを過信して誤りを見落とすリスクも示しています。研修に使う場合も、人が内容を確かめる工程を含めて計画します。出典:WHO、2024年1月18日

そのため、院内でメリットを説明するときは、「資料作成が速くなる」と断言するよりも、**「たたき台作成の負担を減らせるか、確認時間も含めて試す」**と伝えると、試行の目的を共有しやすくなります。


ステップ1|解決したい研修の課題を一つ決める

まずは、現在の研修で何に時間や手間がかかっているかを整理します。その課題が決まると、AIに任せる作業と、試行後に確認する項目も絞れます。

例えば、「新人研修の準備に時間がかかる」という悩みには、資料の構成、説明文の作成、確認問題づくりなど、複数の作業が含まれています。このうち「確認問題の作成に時間がかかる」と絞れば、その作業でAIを使い、準備時間や修正内容を記録できます。

試行前に、次の4点を一枚のメモにまとめておきましょう。

例):新人向け研修の確認問題づくりを対象に、担当者が作成した場合と、AIを使った場合の準備時間を記録。修正が必要だった問題については、修正箇所とその理由も残します。

最初の試行では、このように一つの作業に範囲を限定します。患者情報を使う作業や診療上の判断まで、同時に広げる必要はありません。


ステップ2|院内の承認と利用ルールを整える

試したい用途が決まったら、その用途で使える環境とルールを院内で確認します。

職員に個人でAIを使った経験があっても、同じサービスやアカウントを病院の業務に使えるとは限りません。院外で資料を作る場合も、病院の情報を扱うなら院内ルールを確認します。

必ず上司や医療相談担当者、総務など関係者に確認してから利用するようにしましょう。

確認項目試行前に決めておくこと
利用環境使用を認めるサービス、契約・アカウント、端末
入力情報入力できる題材と、入力してはいけない情報
データの扱い学習への利用、保存期間、削除方法、アクセスできる人の範囲など
出力の確認誰が内容を確認し、教材として使うかを判断するか
問題発生時誤入力や情報漏えいが疑われた場合の連絡先と対応

個人情報保護委員会は、生成AIに個人情報を入力する際、利用目的の範囲や、提供事業者による個人データの学習利用等を確認するよう注意を促しています。「学習に使われない設定」であることだけを確認して、利用できると判断することは避けます。出典:個人情報保護委員会、2023年6月2日

本記事で提案する初期研修では、入力範囲を明確にするため、

患者名だけを消した記録も使わず、最初から研修用に作った仮想例を使う運用です。

今後、医療情報を扱うシステムへ用途を広げる場合は、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を踏まえて検討します。

同ガイドラインでは、責任体制、リスク評価、事業者との役割分担などが示されています。患者情報を扱わない研修での試行と、医療情報システムへの導入は、分けて計画します。出典:厚生労働省、第7.0版・経営管理編


ステップ3|仮想例で臨床推論を学ぶ研修を設計する

利用環境とルールが決まったら、研修の内容を組み立てます。初回は基本操作に加え、「入力してはいけない情報」と「出力の確かめ方」を扱い、その後に臨床推論の演習へ進みます。

ここでいう臨床推論とは、得られた情報から仮説を立て、追加の情報や評価によって確かめていく考え方です。この過程を学ぶため、AIの回答を見る前に、職員自身が考える時間を設ける方法を提案します。

演習では、自分が考えたことと、AIが挙げた内容を比較できるようにします。進め方は次のとおりです。

  1. 仮想例を読み、職員が自分の仮説と、不足している情報を書き出す
  2. AIに、追加で確認する情報や問いかけの候補を挙げさせる
  3. 自分の考えと比較し、採用する案と採用しない案を整理する
  4. 指導者と教材・原資料を確認し、判断した理由を説明する

仮想例:「椅子からの立ち上がりに困難がある架空の人物」を題材に、その理由を検討するため、何を追加で知る必要があるかを考えます。実在患者を基にしない、研修専用の設定です。

AIには、例えば次のように指示します。

これは研修用の仮想例です。椅子からの立ち上がりに困難がある人物について、理由を検討するために不足している情報を挙げてください。各項目について「確認する情報」と「確認する目的」を分けてください。与えていない所見は補わず、診断や治療方針は確定しないでください。

このように指示しても、出力の正確さは保証されません。指導者は、AIが挙げた候補の数よりも、職員が「その情報をなぜ確認するのか」「どのように仮説を確かめるのか」を説明できるかに注目します。

出力を比較していると、AIが根拠や参考文献を示すことがあります。その場合は、資料が実在するかを調べたうえで、本文を読み、説明の根拠になる内容が書かれているかを確認します。

同じAIに「本当に正しいですか」と尋ねるだけで確認を終えず、教科書、ガイドライン、原著論文などと照合する工程を研修に組み込みます。裏づけを確認できない説明は、教材の正答や指導上の根拠として採用しないルールにしておきます。

筆者は理学療法士として、AIで解剖学の画像を生成した経験があります。ただし、画像を生成した経験だけでは、教材としての正確さや学習効果を示すことはできません。

研修で使用するなら、構造の位置関係、左右、名称と指示線の対応などを確認する項目として整理し、使用が認められた解剖学書等と照合する方法が考えられます。確認できる担当者がいない場合は、その画像を教材に採用することを見送ります。

画像教材も臨床推論の演習も、ここでは職員教育のための試行として扱っています。実患者の評価や治療方針への利用を考える際は、研修とは別に検討します。


ステップ4|少人数で試し、確認・修正の負担も記録する

研修の内容が整ったら、確認担当者が出力を追える人数と範囲で試します。例えば、一つの研修テーマに限定し、担当者と数人の職員で実施する方法があります。

AIが短時間で回答しても、その後の確認や修正に手間がかかる場合があります。準備の負担が減ったかを判断するには、教材として使える状態になるまでの時間を記録します。あわせて、教材の内容や、職員がどのように考えたかも振り返ります。

評価すること記録する内容
準備の負担指示の作成、生成、内容確認、修正までの合計時間
教材の品質誤り、根拠不足、曖昧な説明、修正した箇所
学習の様子仮説や、追加情報が必要な理由を自分の言葉で説明できたか
運用上の課題操作のつまずき、入力範囲への迷い、ルール違反の有無
費用利用料に加え、設定・教育・確認に必要な職員の時間

例えば、たたき台が早くできても、確認と修正に時間がかかれば、準備負担が減ったとは判断できません。一方、時間短縮が小さくても、指導者が問いかけを検討する材料として役立つ可能性はあります。何を改善したかったのかに立ち戻って、結果を読み取ります。

少人数・短期間の試行から分かることには限りがあります。その結果だけで臨床推論能力や患者への治療効果が向上したとは結論づけず、まずは、その研修での使いやすさ、確認の負担、見直す点を整理します。

なので結果だけでなく過程についても着目するようにしましょう。


ステップ5|結果を共有し、継続・修正・中止を判断する

試行後は、上司や関係部署が経過を知らなくても判断できるように、目的から結果までをつなげて報告します。

報告の順序は、「解決したかった課題 → 試した用途 → 確認できた結果 → 残る課題 → 次の提案」です。導入前の説明でも、この順序を意識すると、何を試し、何を確かめたいのかが伝わります。

例えば、試行を提案する際は、次のように説明できます。

新人研修の準備負担を減らせるか確認するため、研修用の仮想例と問いかけの作成に生成AIを試したいと考えています。患者情報は使わず、院内で認められた環境で、担当者が出力を確認します。確認・修正を含めた準備時間と教材の品質を記録し、継続するか判断します。

結果を振り返ると、役立った用途と、修正が必要な用途が分かれてくることもあります。その場合は、役立った範囲で継続する、使い方を見直す、試行を止めるという選択肢から判断します。

  • 確認の負担を含めて役立った用途は、同じ範囲で継続する
  • 修正が多い場合は、指示や題材、用途を見直す
  • 内容を確認できない場合や、入力ルールを守れない場合は試行を止める

個人情報の誤入力などが起きた場合は、予定していた評価日を待たず、院内で決めた連絡先に報告します。

研修で役立ったという結果は、診療で使えることまで示すものではありません。診療記録や実患者への助言に用途を広げる際は、利用目的、データ管理、臨床上の妥当性、責任体制を改めて検討します。


院内提案に使える導入前チェックリスト

ここまでの準備を、試行前に確認する項目としてまとめました。決まっていない項目があれば、誰に相談して決めるかを整理するために使ってください。

  • 解決したい研修の課題を一つ説明できる
  • 院内で利用を認めるサービス・アカウント・端末が決まっている
  • 入力してよい情報と、入力してはいけない情報が決まっている
  • 実在患者を基にしない仮想例を用意している
  • 出力の確認担当者と、照合する資料が決まっている
  • 確認・修正を含めた時間と、教材の品質を記録できる
  • 中止する条件と、問題発生時の相談先が決まっている

最初の一歩は、現在の研修で困っていることを一つ選び、上司や関係部署に試行の目的を共有することです。そのうえで「何をAIに任せるか」「誰が内容を確かめるか」「何を見て継続を判断するか」を決めていけば、リハDXの導入を具体的に検討できます。


出典

  1. 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」、2023年6月2日。日本国内の個人情報の取扱いに関する注意事項。
  2. 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版・経営管理編」、2026年6月。主に第1章「安全管理に関する責任・責務」、第2章「リスク評価を踏まえた管理」を参照。
  3. WHO「WHO releases AI ethics and governance guidance for large multi-modal models」、2024年1月18日。医療教育を含む想定用途と、不正確な出力・過信等のリスクを説明する公式発表。日本の法的要件や、リハビリ研修の教育効果を直接示す資料ではありません。