「勤務終了の時間になっても、介護記録が終わっていない」
「紙に書いた内容を、あとからパソコンへ入力している」
「同じ内容を介護記録と申し送りノートの両方に書いている」
介護現場で働いていると、このような記録業務の負担を感じることは少なくありません。
介護記録は、利用者さんの状態を職員間で共有し、安全で適切なケアを行うために欠かせないものです。
一方で、記録の方法や仕事の流れによっては、同じ内容を何度も入力したり、勤務の最後に記録が集中したりすることがあります。
その結果、介護記録が残業の原因になっている事業所も少なく無いでしょう。
ですが、介護記録を効率化するために、最初から高額なシステムを導入する必要はありません。
まずは、
「どの作業に時間がかかっているのか」
を確認し、一つずつ改善していくことが大切です。
この記事では、介護記録を効率化する7つの方法と、記録の質を落とさずに改善を進める手順を紹介します。
介護DX全体の考え方については、前回の記事「介護DXとは?ICTとの違い・具体例・現場での始め方」で詳しく解説しています。

介護記録に時間がかかるのはなぜ?
介護記録が勤務時間内に終わらないと、
「自分の入力が遅いから」
と考えてしまう方もいるかもしれません。
ですが、記録に時間がかかる原因は、職員個人の入力速度だけではありません。
例えば、
- ケアの内容を紙にメモする
- 勤務の最後にパソコンへ入力する
- 同じ内容を申し送りノートにも書く
- 記録内容をほかの職員に確認する
という流れになっていたとします。
この場合、一つの出来事を記録するために、複数回の作業が発生しています。
ほかにも、
「どこまで詳しく書けばよいのかわからない」
「職員によって記録の書き方が違う」
「パソコンが空くまで入力できない」
「毎回文章を最初から考えている」
といったことも、記録時間が長くなる原因です。
介護記録を効率化するときは、単に文字を速く入力するのではなく、
観察してから正式な記録が完成するまでの流れ全体
を確認する必要があります。

介護記録を効率化する7つの方法
介護記録を効率化する方法は、次の7つです。
| 方法 | 費用の目安 | 始めやすさ | 事業所での確認 |
|---|---|---|---|
| 記録時間を測る | ほぼ不要 | 始めやすい | 推奨 |
| 記録項目と書き方をそろえる | ほぼ不要 | 比較的始めやすい | 必要 |
| 定型文や選択式入力を使う | ほぼ不要 | 始めやすい | 推奨 |
| ケア後できるだけ早く入力する | 端末による | 環境による | 必要 |
| 音声入力を使う | 端末による | 環境による | 承認済み機能のみ |
| 二重入力と転記を減らす | ほぼ不要~ | 業務による | 必要 |
| 生成AIを文章整理に使う | サービスによる | 環境による | 正式な承認が必要 |
介護も企業のマネジメントと同様にPDCAサイクルを用いて対策していく必要があると考えています。
PDCAサイクルとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)の仮説・検証型プロセスを循環させ、マネジメントの品質を高めようという概念です。
今回は介護記録に関してこれに当てはめてみると
「介護記録時間を短縮する」(Plan)
↓
「実際に数日間記録してみる」(Do)
↓
「時間を測る」(Chek)
↓
「記録のルールをそろえる」・「テンプレートを作る」(Action)
↓
「新しい方法で再度時間を測定する」(Chek)
という順番がコストもかからず、取り組みやすいと思います。
重要なのはまずは現状を知るために評価を行い、その内容に対して何かしらのActionを起こすこと。
Actionでうまくいかなくてもそれは失敗ではなく方法が間違っていただけです。それぞれの病院や事業所にあった方法を見つけていくことが特に重要です。

これからそれぞれの項目について詳しく解説していきます。
1.記録にかかっている時間を測る
最初に行いたいのが、現在の記録時間を測ることです。
「介護記録に時間がかかっている」
と感じていても、実際にどの作業に時間を使っているのかは、測ってみないとわからないことがあります。
例えば、文章を入力する時間よりも、
- 紙からパソコンへ転記する時間
- パソコンが空くまで待つ時間
- 入力内容を確認・修正する時間
- 必要な情報を探す時間
の方が長いかもしれません。
まずは3日間だけ、次のように測ってみます。
| 日付・勤務帯 | 記録件数 | 入力 | 転記 | 待ち時間 | 修正 | 気づいたこと |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1日目 | ||||||
| 2日目 | ||||||
| 3日目 |
3日間の測定は、原因を探すための簡易的な確認です。
曜日、勤務帯、利用者数、職員配置、入浴日、突発的な対応などによって、記録時間は変わります。
改善効果を詳しく確認する場合は、できるだけ条件をそろえ、必要に応じて測定期間を延ばします。
2.記録する項目と書き方をそろえる
次に確認したいのが、
「何を記録するのか」
というルールです。
例えば食事の記録でも、職員によって確認する項目が違うと、記録内容にばらつきが出ます。
食事記録であれば、
- 食事摂取量
- 水分摂取量
- むせの有無
- 介助した内容
- 利用者さんの反応
- 食後の状態
など、基本となる項目を決めておくと記録しやすくなります。
介護記録では、次の情報を分けて考えることも大切です。
- 日時
- 観察した事実
- 利用者さん本人の発言
- 実施したケア
- 利用者さんの反応
- その後の経過
- 連絡・報告した相手と内容
- 記録者
特に注意したいのが、職員の主観だけで記録してしまうことです。
例えば、
昼食後、眠そうだった。水分を少し飲んだ。
という記録では、当時の状況が十分に伝わらないかもしれません。
次のように書くと、状況をイメージしやすくなります。
13時30分、食堂の椅子に座り閉眼していた。呼名で開眼し、「少し眠い」と発言。麦茶150mLを摂取。摂取中に咳・むせはみられなかった。
「眠そうだった」ではなく、
「椅子に座り閉眼していた」
と観察した事実を書きます。
また、本人の発言はかぎ括弧で示すと、職員の判断と区別しやすくなります。
3.定型文・テンプレート・選択式入力を使う
記録項目をそろえたら、次に入力方法を考えます。
毎日繰り返し記録する内容は、テンプレートや選択式入力を使うことで、入力時間を短縮できる可能性があります。
例えば、
- 食事
- 水分摂取
- 排泄
- 入浴
- 服薬
- 移乗
- 夜間巡視
などです。
食事記録なら、次のような形が考えられます。
【日時】
【摂取量】主食: 割/副食: 割/水分: mL
【観察した事実】
【本人の発言】
【介助・対応】
【反応・経過】
【報告先・内容】
共通する情報は、チェックボックスや選択項目で入力します。
一方、
「普段と違う様子があった」
「食事中にむせがみられた」
「本人から体調について発言があった」
といった内容は、個別に記載します。
定型分のメリットとして、介護用語について詳しく知らない職員でも他の職員と同様に記録が可能となることです。
新人や業界歴が短い人は記録内容をどう書けばいいのか分からない、どう表現していいのか分からないという悩みを持っている人も多いでしょう。
そんな人でも定型文であれば当てはまったものを選択するだけなどで記録のレベルを統一することができます。
しかし、定型文は便利ですが
「前回の文章をそのままコピーする」
だけにならないよう注意が必要です。
ほかの利用者さんの記録をコピーし、氏名や数値を修正し忘れる可能性もあります。
テンプレートは、利用者さんごとの変化を記録しやすくするために使うことが大切です。
4.安全を優先し、ケア後できるだけ早く入力する
勤務の最後に一日分をまとめて記録すると、当時の出来事を思い出す時間が必要になります。
「何時ごろだったかな?」
「このとき、どのくらい水分を飲まれていたかな?」
と、ほかの職員やメモを確認することもあるかもしれません。
ケア後、記憶が新しいうちに記録できれば、こうした確認作業を減らせる可能性があります。
例えば、
改善前
ケアを行う
↓
紙にメモする
↓
パソコンが空くまで待つ
↓
介護ソフトへ入力する
↓
申し送りノートにも書く
という流れを、
改善後
ケアを行う
↓
安全な場所で共用タブレットへ入力する
↓
入力した内容を申し送りでも確認する
という流れに変えられるかもしれません。
この場合、入力速度よりも、
「待ち時間」と「二重入力を減らすこと」
が改善の中心です。
ただし、介助中に端末を操作してよいわけではありません。
移乗、食事、排泄、入浴などの場面では、利用者さんの安全と尊厳が最優先です。
端末操作によって、見守りや介助が中断されないようにします。
使用する端末についても、事業所が承認・管理しているものを使用します。
5.音声入力を使う
文字入力が苦手な職員や、長い経過記録を作成する場面では、音声入力が役立つ可能性があります。
例えば、
14時に居室を訪問。ベッド上で休まれていた。呼名により開眼。「気分は悪くない」との発言あり。麦茶150mLを摂取した。
といった内容を、キーボードではなく音声で入力します。
ただし、
「音声入力を使えば必ず速くなる」
とは限りません。
利用者さんの氏名、薬剤名、専門用語、時刻、摂取量などが誤って変換される可能性があります。
音声認識後の文章を読み返し、元の観察事実、数値、時刻、薬剤名などと照合する必要があります。
音声や変換データが外部のサーバーへ送信・保存される機能にも注意が必要です。
個室であっても、事業所が承認していない音声入力機能へ、利用者さんの情報を読み上げてはいけません。
最初は実際の利用者さんの情報ではなく、最初から架空の人物として作成した文章で試してみるとよいでしょう。
6.二重入力と転記を減らす
介護記録の効率化で特に見直したいのが、二重入力です。
例えば、
手書きメモ
↓
紙の記録用紙
↓
パソコンの介護ソフト
↓
申し送りノート
という流れになっていないでしょうか。
同じ内容を何度も書いている場合、キーボード入力を少し速くするだけでは、大きな改善にならないかもしれません。
まずは、それぞれの記録について、
- 誰が読むのか
- 何のために使うのか
- いつまでに共有するのか
- 別の記録と内容が重複していないか
- 一度の入力でほかの帳票へ反映できないか
を確認します。
厚生労働省も、情報共有を効率化する方法として、タブレット端末、定型入力、チェックボックス、音声入力などを紹介しています。
また、介護記録、情報共有、請求事務が連携したソフトを活用することで、転記作業を減らせる可能性があります。
ただし、
「この記録は使っていないから削除しよう」
と現場だけで判断してはいけません。
必要な記録や保存期間は、サービス種別、指定基準、自治体の条例、加算要件、記録の種類などによって異なる場合があります。
記録様式を廃止・統合する場合は、管理者や関係職種が基準を確認したうえで進めることが大切です。
7.生成AIを文章整理の補助に使う
生成AIは、箇条書きの情報を文章へ整えたり、わかりにくい表現を見直したりする補助として使える可能性があります。
例えば、架空の情報として、
14時訪室。ベッド上で閉眼。呼名で開眼。「気分は悪くない」と発言。麦茶150mL摂取。摂取中の咳・むせなし。
という内容を入力したとします。
文章を整理すると、
14時に居室を訪問。ベッド上で閉眼していたが、呼名により開眼した。「気分は悪くない」との発言あり。麦茶150mLを摂取し、摂取中に咳やむせはみられなかった。
という形にできます。
このとき重要なのは、
AIに新しい事実を考えさせないこと
です。
AIには、
事実を追加・推測せず、不明な点は不明と示してください。
と指示します。
それでも、AIが元の情報にない内容を追加する可能性があります。
生成された文章は下書きとして扱い、記録した本人が元の観察内容と照合する必要があります。
また、
利用者さんの氏名を削除すれば自由に入力できる
というわけではありません。
年齢、病歴、居室、家族構成、出来事などを組み合わせると、本人を特定できる場合があります。
利用者さんに関する実際の情報は、事業所が契約内容、保存期間、学習への利用、第三者提供、アクセス管理などを確認し、正式に承認した環境以外へ入力しないようにします。
承認された環境でも、入力内容だけでなく、生成された文章や利用履歴に情報が残る可能性があります。
出力や履歴についても、事業所の個人情報管理ルールに従って扱うことが大切です。
介護記録の効率化で気をつけたいこと
介護記録の効率化は、
「記録をできるだけ短くすること」
ではありません。
必要な情報まで削ってしまえば、利用者さんの状態変化や、職員が行った対応を確認できなくなる可能性があります。
特に、
- 観察した事実
- 利用者さん本人の発言
- 実施したケア
- 利用者さんの反応
- 普段との違い
- その後の経過
- 医療職や家族への連絡
などは、必要に応じて具体的に記録します。
また、新しい入力方法を導入するときは、一部の職員だけで決めないことも大切です。
操作に慣れた職員にとって使いやすくても、ほかの職員には使いにくい可能性があります。
実際の勤務を想定して試し、簡単な手順書や練習時間を用意すると取り組みやすくなります。
個人情報と端末の管理についても、
- IDやパスワードを共有しない
- 端末を放置しない
- 私物端末に情報を保存しない
- 未承認のアプリへ情報を送らない
- 使用後はログアウトする
- 紛失や誤送信時の報告手順を決める
といったルールを確認しておく必要があります。
介護記録の効率化は「まず3日だけ測ってみる」
では、実際に記録業務を改善する場合、何から始めればよいのでしょうか。
最初から新しい介護ソフトを導入する必要はありません。
冒頭でも話した通り、PDCAサイクルを用いて
「時間を測る → 一つ変える → もう一度測る」
という方法から始めるのがおすすめです。
STEP1.3日間だけ時間を測る
入力、転記、待ち時間、修正時間に分けて測ります。
毎日ずっと測り続ける必要はありません。
まず3日程度測るだけでも、どの作業に時間がかかっているのか見えやすくなります。
STEP2.一つだけ変えてみる
例えば、
「食事記録のテンプレートを作る」
「紙のメモからの転記を一つ減らす」
「架空の文章で音声入力を試す」
など、改善方法を一つだけ選びます。
一度に複数の方法を変えると、どの改善が効果につながったのかわかりにくくなります。
STEP3.もう一度測る
変更前とできるだけ同じ条件で、もう一度時間を測ります。
このときは、入力時間だけではなく、
- 修正にかかった時間
- 誤入力の数
- 転記した回数
- 端末の待ち時間
- 職員の使いやすさ
- 記録内容のわかりやすさ
なども確認します。
「便利になった気がする」
だけで判断するのではなく、数字や記録内容を比較することが大切です。
STEP4.続けるかどうかを決める
効果があれば、事業所内で手順をそろえます。
効果がなければ、以前の方法へ戻すか、別の改善方法を試します。
最初から事業所全体を大きく変えるのではなく、
小さく試して、結果を確認する
という進め方が取り組みやすいでしょう。

まとめ
介護記録が勤務時間内に終わらない場合、職員個人の入力速度だけが原因とは限りません。
「紙からパソコンへ転記している」
「同じ内容を複数の場所へ入力している」
「記録する項目が職員ごとに違う」
「パソコンが空くまで入力できない」
といった、仕事の仕組みが影響している可能性もあります。
介護記録を効率化する7つの方法は、次のとおりです。
- 記録時間を測る
- 記録項目と書き方をそろえる
- 定型文・テンプレート・選択式入力を使う
- 安全を優先し、ケア後できるだけ早く入力する
- 音声入力を使う
- 二重入力と転記を減らす
- 生成AIを文章整理の補助に使う
介護記録の効率化は、必要な記録を削ることではありません。
重複する作業、待ち時間、不要な転記を減らしながら、
利用者さんの状態や職員の対応を、正確に共有できる仕組みを作ること
が大切です。
まずは明日の勤務から、記録を始めた時間と終わった時間を測ってみてください。
3日分集まったら、
「入力」
「転記」
「待ち時間」
「修正」
のどこに時間を使っているのか確認します。
そして、最も時間がかかっている作業を一つだけ変え、もう一度測ります。
介護記録の効率化も、大きなシステムを導入するところからではなく、
「時間を測る → 一つ変える → もう一度測る」
という小さな取り組みから始めてみるとよいでしょう。
参考資料
- 厚生労働省「介護分野における生産性向上とは」
- 厚生労働省「情報共有の工夫」
- 個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起」
