PT・OT・STのためのリハビリDX入門
「書く・探す・伝える」を、
もっとスムーズに。
同じことを
何度も入力する
前回の結果が
すぐ見つからない
会議のたびに
資料を作り直す
データをつなぎ、仕事の流れを変える。
それが、リハビリDXを現場で考える第一歩です。
この記事では、3つの具体例と、小さく始める手順を紹介します。
リハビリDXとデジタル化はどう違う?
紙の評価表をパソコン入力に置き換えるのは、情報をデジタルにする取り組みです。さらに、入力した結果を比較・共有し、チームで支援の進め方を変えていくと、DXが目指す変革へ近づきます。[1]
例えば、評価表を電子化しても、会議用の資料に同じ数値を転記していれば作業は残ります。評価の保存先、閲覧する人、会議での使い方まで見直すことが必要です。ツールを導入したかに加え、情報の使われ方と仕事の流れが変わったかを確認しましょう。
デジタル化の例
紙の評価表 → パソコン入力情報を電子データとして残す。
DXが目指す変化
記録 → 比較・共有 → 支援記録した情報を、次の判断と行動につなぐ。
テンプレートを整えるような小さな改善は、その入口です。一つの作業を短縮しただけでDXが完成したと考えず、浮いた時間や共有した情報が支援にどう役立ったかまで見ていきます。
- 1記録する結果と条件を残す
- 2比較する前回との変化を見る
- 3共有するチームで検討する
- 4支援へ活かす次の対応を決める
現場に当てはめる3つの具体例
以下は、リハケアラボが提案する業務の見直し例です。特定の施設で効果を検証した事例ではありません。自施設の運用に合わせ、変更する前に関係者と相談してください。
1.記録:二重入力と書き直しを減らす
まず、一つの記録が完成するまでの流れを書き出します。「メモ→電子カルテ→部門の集計表」のように同じ情報が移動していれば、何のための転記なのかを確認します。制度上・運用上必要な記録を保ちつつ、既存システムの機能で重複を減らせないか検討します。
テンプレートを見直す場合も、定型文で埋めることを目的にしません。その日の変化、実施内容、反応、次に確認したいことを残せる形にします。確認するのは記録の所要時間と、記載漏れ・修正の件数です。
記録業務の整理を詳しく進めたい方は、介護記録を効率化する7つの方法も参考にしてください。介護職向けの記事なので、リハビリ部門で必要な記録項目とは分けて読み替えます。
2.評価:数値と測定条件を一緒に残す
PTの歩行評価、OTの生活動作評価、STのコミュニケーション評価などで、前回の情報を探す時間が長くなっていないでしょうか。まず一つの評価を選び、記録場所と項目をそろえます。
例えば歩行速度なら、測定日と数値だけでなく、使用した補助具や介助条件も一緒に確認できるようにします。条件が違う数値を単純比較しないためです。評価指標ごとの手順に沿って記録し、過去の結果を見つけるまでの時間と、比較に必要な情報がそろっているかを確かめます。
3.カンファレンス:資料作成から支援の相談へ
会議の前に各職種が同じ情報を集め直しているなら、「現在の目標」「前回からの変化」「今回決めたいこと」の共有方法を見直します。既存の記録を参照できる範囲を確認し、別の資料への転記を増やさない設計にします。
会議では、決まった対応、担当者、次の確認日を残します。準備時間が減ったかに加え、決めたことが次の支援につながったかを確認しましょう。
研究・学会から分かること
リハビリテーションは、急性期から回復期、生活期へと場所や時期をまたぎ、多職種が関わります。川上氏の総説は、こうした特徴と個別性の高さを踏まえ、データの標準化や利活用の必要性を整理しています。[1]
日本リハビリテーション医療デジタルトランスフォーメーション学会も、測定方法をそろえてデータを蓄積することや、機器・システムの規格化、現場への実装を設立趣意に掲げています。[4]現場では、まず「同じ項目を同じ意味で残せているか」を確かめることが、その考え方を取り入れる一歩になります。
AIやロボットの活用は、目的と条件を確認する
金子氏の論文では、AI、VR/XR、ロボティクス、遠隔リハビリテーションなどの技術が紹介されています。[3]また、小野氏らによるAIを活用した予後予測の報告もあります。[2]
ただし、研究の結果を自施設へそのまま当てはめることはできません。導入を検討する際は、対象者、入力データ、評価方法、自施設での運用条件を確認します。予測値や機器の出力は、本人の希望や臨床で得た情報と合わせて検討する材料として扱います。
介護分野では、2024年の重点分野改訂で「機能訓練支援」が追加され、2025年度から運用されています。[5]病院だけでなく、通所・入所などの現場でも、評価から計画・訓練へ情報をどうつなぐかが検討課題になります。
小さく始める4ステップ
ここからは、当サイトが提案する試行の進め方です。学会が定めた手順ではありません。最初は、一つの業務・限られた担当者・短い期間に対象を絞ると、何が変わったかを確かめやすくなります。
- 1測る今の時間と負担
- 2一つ変える小さな範囲で試す
- 3測り直す時間と記録の質
- 4判断する続ける・直す・戻す
STEP 1 困りごとと測り方を決める
「記録を効率化する」だけでは、成果を判断しにくくなります。「1件の記録を開始してから確認を終えるまでの時間」のように、何を測るかを具体化します。対象業務、件数、測定期間、中断時間の扱いも決め、変更前の状態を記録します。
STEP 2 変更は一つに絞る
例えば「既存の記録テンプレートの項目順だけを変える」と決めます。同時に入力端末や担当者配置まで変えると、どの変更が影響したのか判断しにくくなります。保存場所、閲覧権限、必要な記録項目は、施設のルールを確認してから試します。
STEP 3 同じ条件で測り直す
変更前後で、記録の種類や測定の開始・終了条件をそろえます。平均時間だけでなく、件数と担当者、普段と違う業務量がなかったかも残しましょう。
計算例(架空):1件あたり平均12分が8分になれば、差は4分です。同じ条件で1日10件を処理する場合、単純計算では40分に相当します。ただし、これは効果の実測値ではありません。確認・修正や新しい集計の時間も含めて、実際の負担が減ったかを確かめます。
STEP 4 続ける・直す・戻すを決める
時間が短くなっても、必要な情報の抜けや他職種への負担が増えていれば見直しが必要です。「記載漏れが増えたら元の様式に戻す」などの基準を試行前に決め、担当者と確認日を設定します。
効果が見られたときも、いきなり部門全体へ広げず、使いにくい点を修正してから対象を増やします。短縮した時間を患者さんとの対話や支援の検討に使えたかも振り返りましょう。
コピーして使える業務改善チェックリスト
以下を会議メモなどにコピーし、空欄を埋めて使ってください。患者さんの氏名などは記入せず、業務の流れと集計結果を整理するためのシートです。使用する保存先は施設のルールに従います。
リハケアラボ|業務改善・試行シート
対象業務:________
現在困っていること:________
改善後に実現したいこと:________
□ 変更する点を一つに絞った
変更内容:________
□ 関係する職種と施設内の担当者に確認した
担当者:________ 試行期間:__月__日〜__月__日
□ 変更前後の測定条件をそろえた
時間の測り方:________
対象件数:変更前__件/変更後__件
1件あたり平均時間:変更前__分/変更後__分
□ 時間以外の変化を確認した
記載漏れ・修正:変更前__件/変更後__件
他職種の負担・使いにくい点:________
支援に活かせたこと:________
□ 中止・見直しの基準を決めた
基準:________
振り返る日:__月__日
判定:継続する/修正して再試行する/元に戻す
次の対応と担当者:________
最初に埋めるのは「対象業務」「困っていること」「変更する点」の3項目で十分です。その後、チームで測り方と試行条件を決めてください。
よくある疑問
高価な機器を買わないと始められない?
最初から購入する必要はありません。今あるシステムの機能、入力項目、記録の保存先を見直すところから始められます。新しい製品を検討するのは、既存の仕組みでは解決できない課題と必要な機能を明確にしてからです。
項目を標準化すると、個別性が失われない?
測定条件や記録項目をそろえることと、全員に同じ支援を行うことは別です。比較できる情報に加え、本人の希望、生活環境、数値に表れない反応を記録する余地を残します。
ChatGPTで記録を作ればDXになる?
文章の作成だけでなく、確認・修正も含めた仕事全体が改善したかで考えます。患者情報を扱う前に、施設で認められた利用環境と情報の取り扱いを確認してください。活用の切り口は、介護職のChatGPT活用術10選で紹介しています。
明日、見直したい業務を一つ選ぶ
リハビリDXを現場で考えるときの出発点は、「どの情報が、どこで止まっているか」です。記録、評価データ、カンファレンスの中から一つ選び、試行シートに困りごとを書いてみてください。チームで小さく試し、時間と情報の質を確かめながら、支援へつながる仕組みに育てていきましょう。
次に読むなら、記録の負担が課題の方は介護記録を効率化する7つの方法へ。部門や施設全体の改善を考える方は、介護DXとは?ICTとの違い・具体例・現場での始め方をご覧ください。
参考資料
[1]川上途行.リハビリテーションチームにもたらすDX効果とは~現状の課題と未来像~.リハビリテーション医療DX研究.2023;1(1):8-10.
[2]小野圭介ほか.AIを活用した予後予測の可能性.リハビリテーション医療DX研究.2024;2(1):11-14.
[3]金子文成.リハビリテーション医療DXと近未来の理学療法室の姿.理学療法―臨床・研究・教育.2025;32(1):3-10.
[4]日本リハビリテーション医療デジタルトランスフォーメーション学会.本学会について(設立趣意).
[5]厚生労働省.「ロボット技術の介護利用における重点分野」を改訂しました.